【数学】ガロア理論学習メモpart3. ガロア群とガロア拡大

はじめに

 この記事は以下の記事の続きとなっております。

szshow.hatenablog.com

 前回ではガロア理論においてキーとなっていた可解群の構造について淡々と述べ、その答えとして乱暴にまとめると「巡回群というループ状の構造をした群によって形成されるマトリョーシカ」という風に結論づける事ができました。そして、最後に結構唐突ではありましたが、5次方程式の可解性について調べる際にラグランジュによって研究され、ガロア自身もヒントにしていた解の置換という考えに直結する群として、3次方程式の場合に対応する3次対称群 D _ 3が可解群であることも示しました。

 この記事ではガロア理論の花形役者とも言える(?)ガロアガロア拡大がどのようなものなのかをざっくりと述べていきます。


目次


体の拡大と多項式

体の基礎

 体という名前自体は初めて聞く人が多いかも知れませんが、実を言うと我々が今まで扱ってきたを表現しています。とりあえず、いつものように以下の定義を見てみましょう。

 集合 F、加算 \{+\}、乗算 \{\times\}について以下の性質が成り立つとき、代数系 \{F, \{+\}, \{\times\}\}を"体"と呼ぶ。


(i) 
代数系[tex: \{F, \{+\}\}は可換群を成す。

(ii)
代数系[tex: \{F^{\times}, \{\times\}\}は群をなす。

(iii)
加算と乗算の間に分配法則が成り立つ。つまり

 a\times(b+c)=(a\times b)+(a\times c) \ \ (a,b,c \in F)  (a+b) \times c=(a\times c)+(b\times c) \ \ (a,b,c \in F)
 ただし、 F^{\times}=F-\{0\}、つまり Fから加算における単位元のみを差し引いた集合に相当する。ここで、2種類の単位元を区別するために加算における単位元を"零元"あるいは"0"、乗算における単位元を単純に"単位元"あるいは"1"と表記する。  また、条件(ii)に代わって新たに (ii)' 代数系 \{F^{\times}, \{\times\}\}は可換群をなす。 を満たす時、代数系 \{F, \{+\}, \{\times\}\}を"可換体"と呼び、交換法則(iii)について
 a\times(b+c) = (a+b) \times c \ \ (a,b,c \in F)
が成り立つ。

 今回は非可換体について考えると色々とめんどくさい事になりそうなので、可換体のみを考えます。また、そのついでに"可換体"を単純に"体"と呼ぶことにします。

 足し算の記号や掛け算の記号が見えてきた時点でなんとなく察した方もいるかもですが、小学校の算数から扱ってきた有理数 \mathbb{Q}、中学あたりから使った実数 \mathbb{R}、工学でもお馴染みの \mathbb{C}が体の例にあたります。

 特殊な例ですとよく挙げられるのが、素数 pによる剰余類 \mathbb{Z} / p\mathbb{Z}です。剰余類はどの整数に対するあまりによって構成しても、加算について群を成すというのは前回でも説明した通りなのですが、素数によって構成した場合には乗算についても零元以外は群を成すという非常に興味深いことが知られております。この点について気になる人は既約剰余類有限群について調べてみると良いかもしれません。特に有限群は(専門ではないので迂闊な事は言えませんが)暗号理論において重要な立ち位置におりますので、そちらの方に興味のある方はじっくりと調べてみると良いと思います。

多項式因数分解と体の関係

 ここでちょっと練習問題を与えてみます。

 以下の多項式因数分解せよ。

(1)

x^2-2x-3
(2)

x^2-2
(3)

x^2+2

 (1)は何も問題ありません。答えは


x^2-2x-3 = (x-3)(x+1)

となります。続いて(2)も問題なく


x^2-2 = (x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})

と答えられるように思えますが、実はここで問題文の方に一つ落とし穴があって、本当はそれぞれの多項式がどの体上で定義されたものなのかも合わせて定義しなくてはなりません。

 これだけだと分かりにくいと思いますので、(1)および(2)が有理数 \mathbb{Q}上か \mathbb{R}上かで答えがどう違うのが以下に示していきます。

(1)
・ \mathbb{Q}上で定義した場合

x^2-2x-3 = (x-3)(x+1)
 \mathbb{R}上で定義した場合

x^2-2x-3 = (x-3)(x+1)
(2) ・ \mathbb{Q}上で定義した場合
 
x^2-2 = x^2-2
 \mathbb{R}上で定義した場合
 
x^2-2 = (x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})

 要するに無理数を使えるか使えないかの違いです。(2)が有理数 \mathbb{Q}上で定義した場合は無理数が使えないのでもう最初からこれ以上バラバラにできない状態になっています。なので、(3)についても以下のような答えになります。

(3)
・ \mathbb{Q}上で定義した場合
 
x^2+2 = x^2+2
 \mathbb{R}上で定義した場合
 
x^2+2 = x^2+2
 \mathbb{C}上で定義した場合
 
x^2+2 = (x- i\sqrt{2})(x+ i\sqrt{2})

 これらの練習問題から、多項式因数分解において考える場合にはその多項式がどの体の上で定義されたものなのかを確認することが重要というメッセージを感じ取ってくれればなと思います。

拡大体

 では、どうして前節で体と多項式因数分解の関係性について述べたかと言うと、ガロア群およびガロア拡大について述べる際に重要な"拡大体"について導入したかったからです。早速以下に定義を述べたのでご覧になってください。

 体 Fが体 Lの部分体であるとき、 L Fの"拡大体"であるという。

 部分体というのは前回取り扱った部分群と同じようなノリで考えて大丈夫です。ただ、拡大体において部分群という呼び方はあまりされず、代わりに基礎体と呼ばれます。

 体 Fの部分集合 fが体を成す時、 f Fの"部分体"または"基礎体"と呼ぶ。

 拡大体の例としては有理数体の拡張としての実数体 \mathbb{R}/\mathbb{Q}などが挙げられ、更に"数"を扱う代表的な体の含有関係を考えると


\mathbb{Q} \subset \mathbb{R} \subset \mathbb{C} \subset \mathbb{H}

となります。小さい方から、有理数体、実数体複素数体、そして初出の"ハミルトンの四元数"があたります。この記事では定義を与えませんが、四元数というのはアイルランドの数学者ウィリアム・ローワン・ハミルトンが複素平面を3次元に拡張することをモチベーションにして考えたもので、3次元の回転を表現するのに便利なので今日では3Dグラフィックスや3次元空間上の力学に応用されています。それに続いて八元数十六元数などといったものもありますが、筆者がその辺不勉強なのと、この記事での目標から大きく逸れてしまうために詳しい言及は避けます。

数の添加と拡大次数

 体の拡大を考えるにあたって重要な概念に"添加"という概念があります。定義にあまり自信はありませんが、以下をご覧ください。

 体 Fに数 \alphaを"添加"したものを F(\alpha)と表し、以下のように表される。


F(\alpha)=\{a_{0} + a_{1}\alpha + a_{2}\alpha ^ {2} + \cdots | x \in F\}

 代表的な例が有理数 \sqrt{2}を添加して得られる \mathbb(Q)(\sqrt{2})で、これは


\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\{a + b\sqrt{2}\}

と表すことができます。ここで、定義との食い違いを感じる方も居るかもしれませんが、 \sqrt{2}を二乗すると有理数 2になるので結局は aの項に吸収され、同様に3乗すると 2\sqrt{2}になるので b\sqrt{2}に吸収されるので、項の数としてはその2通りで十分ということになります。また、同じような例として、実数体 \mathbb{R} i^ 2=-1より表される iを添加した \mathbb{R}(i)は丁度複素数体 \mathbb{C}になります。さっきの例と同様に調べてみるとすぐに分かると思います。

 では、2つ以上の数を添加するとどうなるのかを調べるために、今度は[tex: \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3})を見てみましょう。これは有理数体に \sqrt{2}を添加したものに対して更に \sqrt{3}を代入することに等しいので、 (\mathbb{Q}(\sqrt{2}) )(\sqrt{3})と書き表すことができます。すると、

 
\begin{equation*}
\begin{split}
\mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3})
=
\{(a+b\sqrt{2})+(c+d\sqrt{2})\sqrt{3} | a,b,c,d\in\mathbb{Q}\}\\
=
\{a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6}\} | a,b,c,d\in\mathbb{Q}\}
\end{split}
\end{equation*}

と書けます。つまり、 \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3})の部分群は \mathbb{Q}(\sqrt{2}),  \mathbb{Q}(\sqrt{3}),  \mathbb{Q}(\sqrt{6})となり、体の拡大における部分体を中間体と呼びます。

 最後に拡大次数というものを定義しておきます。

 拡大体 E/F
E/F = \{a_{0} + a_{1}x_{1} + a_{2}x_{2} + \cdots + a_{N}x_{N} | a_i \in F, x_j \in E\}


より表される場合、{}内の項の数、つまり N+1を拡大次数と呼ぶ。

 例えば、 \mathbb{Q}(\sqrt{2}) \mathbb{R}(i)の拡大次数は2で、 \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3})の拡大次数4となります。線形代数を習った人ならば、拡大体をベクトル空間と見立てた上で拡大次数をその次元数と見なすこともできます。


ガロア群と体の自己同型

ガロア群の定義

 体の基礎を学び終えたところでガロア群の定義を見ていきます。

 拡大体 E/Fの自己同型写像 {\rm Aut}(E/F)を基礎体 Fの各元を変化させない Eの自己同型写像の集合と定義する。また、これは群をなす。ここで、 E/Fガロア拡大ならば {\rm Aut}(E/F)ガロア群と呼ぶ。

拡大体の自己同型写像

 前回では"群の自己同型写像"を見ていきましたが、今回は"体の自己同型写像"を見ていきます。自己同型写像の性質といえば集合の中身を変えない全単射写像と言うものがあり、体を扱う場合にもその性質自体は変わりません。しかし、体は2つの演算規則より構造が定まっているので、群と比べて形として捉えるのが難しくなっています。なので今回は数値をそのまま観察しながら自己同型写像を考えることから初めましょう。

 簡単な例として、 E/F=\mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}の自己同型写像を考えてみます。ここで


\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\{a+b\sqrt{2} | a, b \in \mathbb{Q}\}

とすると、基礎体 \mathbb{Q}の各元を変えない自己同型写像とは bに何かしらの変化を及ぼすような写像となりそうです。

 まずは bに1を加算する写像 \sigmaを考えてみましょう。すると、


\sigma(\mathbb{Q}(\sqrt{2}) )=\{a+(b+1)\sqrt{2} | a, b \in \mathbb{Q}\}

と表すことができます。これが自己同型で表すことを示すにはどうすれば良いのでしょう? その代表的な方法として


\sigma(x+y)=\sigma(x)+\sigma(y) \ \ (x,y \in E)\\
\sigma(xy)=\sigma(x)\sigma(y)\ \ (x,y \in E)

が成り立つかを確かめるという方法があります。成り立っていたら、本来の体が持っていた構造あるいは元同士の関係性というのが崩れていないと見なし、成り立たなかったら崩れていると見なします。早速先程の例で見てみますと、加算については


\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(x+y) &=& \sigma( (a_x + a_y)+(b_x + b_y)\sqrt{2}) \\
&=&(a_x+a_y)+(b_x+b_y+1)\sqrt{2} \\
\ 
\end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(x)+\sigma(y) &=& \sigma(a_x +b_x\sqrt{2}) + \sigma(a_y +b_y\sqrt{2}) \\
&=&\sigma(a_x +(b_x+1)\sqrt{2}) + \sigma(a_y +(b_y+1)\sqrt{2}) \\
&=&(a_x+a_y)+(b_x+b_y+2)\sqrt{2}
\end{eqnarray*}

より \sigma(x+y) = \sigma(x) + \sigma(y)が成り立たないので、 bに1を足す写像は自己同型写像ではありません。更にこれは1を他の有理数に置き換えても成り立つので、もっと一般的に bに何かを足す写像というのは自己同型写像には入らなさそうです

 では、何かしらの有理数を乗算する写像はどうでしょう? そこで今度は \sigmaを、 b q倍する写像、つまり


\sigma(\mathbb{Q}(\sqrt{2} ) )=\{a+qb\sqrt{2} | a, b, q \in \mathbb{Q}\}

としてみます。すると、加算については


\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(x+y) &=& \sigma( (a_x + a_y)+(b_x + b_y)\sqrt{2}) \\
&=&(a_x+a_y)+q(b_x+b_y)\sqrt{2} \\
\ 
\end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(x)+\sigma(y) &=& \sigma(a_x +b_x\sqrt{2}) + \sigma(a_y +b_y\sqrt{2}) \\
&=&\sigma(a_x +qb_x\sqrt{2}) + \sigma(a_y +qb_y\sqrt{2}) \\
&=&(a_x+a_y)+q(b_x+b_y)\sqrt{2}
\end{eqnarray*}

より成立することが分かります。しかし、乗算については


\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(xy) &=& \sigma( (a_x+b_x\sqrt{2})(a_y+b_y\sqrt{2}) ) \\
&=& \sigma( (a_{x}a_{y}+2b_{x}b_{y}) + (a_{x}b_{y}+b_{x}a_{y})\sqrt{2}) \\
&=&(a_{x}a_{y}+2b_{x}b_{y}) + q(a_{x}b_{y}+b_{x}a_{y})\sqrt{2} \\
\ 
\end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*}
\qquad \sigma(x)\sigma(y) &=& \sigma(a_x +b_x\sqrt{2}) \sigma(a_y +b_y\sqrt{2}) \\
&=&\sigma(a_x +qb_x\sqrt{2}) \sigma(a_y +qb_y\sqrt{2}) \\
&=&(a_{x}a_{y}+2\color{red}{q^{2}}b_{x}b_{y}) + q(a_{x}b_{y}+b_{x}a_{y})\sqrt{2}
\end{eqnarray*}

後者の有理数部に q^ {2}という余計な数値が入った項が出てきてしまいます。つまり、 bを数倍する写像についても一般的には自己同型写像にはなり得えないことを意味します。ただ、 q=1, -1の場合に限っては \sigma(x)\sigma(y)=\sigma(xy)が成り立つので、その場合に限って \sigmaは自己同型写像となり得ます。

 以上より、 \mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}の自己同型写像は恒等写像および \sqrt{2}を-1倍する写像の2つのみとなります。


ガロア拡大

 ガロア拡大とは要するに方程式の解の置換を考える際にある都合の良い性質を持った拡大のことを指し、その定義は主に3通りに言い表されています。そこでこの章では、その3つの定義を順番に説明します。

分離多項式の性質による定義

  Eがある基礎体 Fに係数を持つ分離多項式の分解体である時、 E/Fガロア拡大である。

 この中だと最も自然な定義であるように思われます。まず、分離多項式を簡単に言うと、重根を持たない方程式のことです。例えば


\qquad x^2 + x - 6 = (x-2)(x+3)

は重根を持たないので分離多項式ですが


\qquad x^2 -2x + 1 = (x-1)^2

は1を重根に持っているので分離多項式ではありません。

 次に「基礎体 Fに係数を持つ分離多項式分解体」というのは、係数が全て Fの元である分離多項式を1次式の積として分解できる体のことです。例えば、


\qquad x^2 - 2 = (x+\sqrt{2})(x - \sqrt{2})

 は有理数 \mathbb{Q}を係数に持つ分離多項式ですが、これを右辺のような1次式の積として表すには \mathbb{Q} \sqrt{2}を添加しなければなりません。なので、 \mathbb{Q}(\sqrt{2}) x^ 2 - 2の分解体――つまり、 \mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}ガロア拡大となります(どれか一つの分離多項式の分解体であれば良いことに注意してください)。

 逆にガロア拡大でない例としては \mathbb{Q}(\sqrt [3]{2})がよく挙げられます。一見すると x^ 3 - 2の分解体になりそうですが、実際に1次式の積に分解してみると


\begin{eqnarray*}
x^3 - 2 &=& (x-\sqrt[3]{2})(x^2 + \sqrt[3]{2}+(\sqrt[3]{2})^2 ) \\
&=&(x-\sqrt[3]{2})
\left(x - \frac{\sqrt[3]{2}}{2} (-1 + i\sqrt{3}) \right)
\left(x - \frac{\sqrt[3]{2}}{2} (-1 - i\sqrt{3}) \right) \\
&=&(x-\sqrt[3]{2})(x-\sqrt[3]{2}\omega)(x-\sqrt[3]{2}\omega^2)
\qquad \left(\omega=\frac{-1+i\sqrt{3}}{2}\right)
\end{eqnarray*}

 となり、1の3乗根 \omegaも添加して \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)としないと x^ 3 - 2の分解体にならないことが分かります(1行目から2行目の変形には2次方程式の解の公式を用いています)。

自己同型写像の個数と拡大次数による定義

 拡大体 E/Fの自己同型写像による群 {\rm Aut}(E/F)の位数を |{\rm Aut}(E/F)| E Fにおける指数を [E:F]と表す。
 この時、 {\rm Aut}(E/F)=[E:F]が成り立つなら、 E/Fガロア拡大である。

 解説する前にこれまで説明していなかったキーワードについて説明します。群の位数というのは群の中に入っている元の個数を指し、 E Fにおける指数というのは Eの位数を Fの位数で割った数だと思ってくだされば大丈夫かなと思います(詳しくはラグランジュの定理を参照してください)。ついでに詳しい説明は省きますが、後者については拡大次数と同じ値になります。

2の実3乗根のみ添加した場合

 例として \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)の自己同型写像の個数と指数を比較します。まず前者は


\qquad \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) = 
\left\{a + b\sqrt[3]{2} + c(\sqrt[3]{2})^ 2 | 
a, b, c \in \mathbb{Q}\right\}

 より、拡大次数 \left[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) : \mathbb{Q} \right]=3であることが分かります。一方の自己同型写像の位数についてはちょっと大変な計算をこなす必要があるのですが、 b p倍、 c q倍する写像 \sigmaとすると、 \sigma(xy) \sigma(x)\sigma(y)がそれぞれ


\qquad \sigma(xy) = 
(a_{x}a_{y}+2b_{x}c_{y}+2c_{x}b_{y}) +
\color{red}{p}(a_{x}b_{y}+b_{x}a_{y}+2c_{x}c_{y})\sqrt[3]{2} + 
\\ \qquad \qquad \qquad \qquad
\color{blue}{q}(a_{x}c_{y}+b_{x}b_{y}+2c_{x}a_{y})(\sqrt[3]{2})^2
\\
\qquad \sigma(x)\sigma(y) = 
(a_{x}a_{y}+2\color{red}{p}\color{blue}{q}b_{x}c_{y}+2\color{red}{p}\color{blue}{q}c_{x}b_{y}) + 
(\color{red}{p}a_{x}b_{y}+\color{red}{p}b_{x}a_{y}+2\color{blue}{q}^{2}c_{x}c_{y})\sqrt[3]{2} + 
\\ \qquad \qquad \qquad \qquad
(\color{blue}{q}a_{x}c_{y}+\color{red}{p}^{2}b_{x}b_{y}+2\color{blue}{q}c_{x}a_{y})(\sqrt[3]{2})^2

となります。実は \sigma(xy)=\sigma(x)\sigma(y)を満たすのは (p, q)=(1, 1)となる写像――つまり恒等写像のみとなるので、 |{\rm Aut}(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) )| = 1となり、拡大次数と自己同型写像の個数が一致していないことが分かります。以上より、今回の定義で見てみても \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})ガロア拡大でない事が分かりました。

1の3乗根も添加した場合

 続いて \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)についてですが、こっちは計算がややキツかったので現時点では有名な定理などを証明なしにそのまま使って述べてみます(もちろん、理解する上で良くないのは存じていますので機会があれば別途まとめてみたいと思います)。

 まず、拡大次数についてですが、これについては以下の定理が役に立ちます。

 3つの体 E, M, Kについて、 E \subset M \subset Kが成り立つ時、拡大体 E/Kについて以下が成り立つ。


[E:K]=[E:M][M:K]
これを"塔定理"と呼ぶ。

 これを用いると、 (\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}))(\omega)の拡大次数というのは


\begin{eqnarray*}
\qquad \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})(\omega) &=&
\left\{a+b\omega + b\omega^2 | a, b \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})\right\} \\
&=& \left\{\left(a-\frac{b}{2}-\frac{c}{2}\right)+\left(\frac{b}{2}-\frac{c}{2}\right)i\sqrt{3}\ 
| a, b \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})\right\} \\
&=& \left\{a' + ib'\sqrt{3} |  a', b' \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})\right\}
\end{eqnarray*}

より、 [(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}))(\omega) : \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})] = 2となるので、


[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega) : \mathbb{Q}] = 
[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega) : \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})]
[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})\ : \mathbb{Q}]  =
2 \times 3 = 6

となります。証明が気になる方は拡大体によるベクトル空間の基底とその一次独立性を考えてみてください。先程の例から着想を得るのもいいかもしれません。

 一方の自己同型写像による群もかなり大変な計算をこなす必要がありますが、とりあえず2元 x, y \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)の積を見てみると


\begin{eqnarray*}
xy &=&(A_x + iB_{x}\sqrt{3})(A_y + iB_{y}\sqrt{3}) \quad (A_x, A_y, B_x, B_y \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}))\\
&=& (A_{x}A_{y}-3B_{x}B_{y})+i(A_{x}B_{y}+B_{x}A_{y})\sqrt{3} \\
\end{eqnarray*}

とここまでくれば、 B _ x, B _ yを-1倍する写像が自己同型となりそうなのが分かりますが、それでもまだ恒等写像と合わせて2つだけで全然足りる気がしません。

 しかし! 1の3乗根 \omegaが添加されたことによって、 \sigma(xy) = \sigma(x)\sigma(y)を満たすものが恒等写像しかなかった


\qquad \sigma(xy) = 
(a_{x}a_{y}+2b_{x}c_{y}+2c_{x}b_{y}) +
\color{red}{p}(a_{x}b_{y}+b_{x}a_{y}+2c_{x}c_{y})\sqrt[3]{2} + 
\\ \qquad \qquad \qquad \qquad
\color{blue}{q}(a_{x}c_{y}+b_{x}b_{y}+2c_{x}a_{y})(\sqrt[3]{2})^2
\\
\qquad \sigma(x)\sigma(y) = 
(a_{x}a_{y}+2\color{red}{p}\color{blue}{q}b_{x}c_{y}+2\color{red}{p}\color{blue}{q}c_{x}b_{y}) + 
(\color{red}{p}a_{x}b_{y}+\color{red}{p}b_{x}a_{y}+2\color{blue}{q}^{2}c_{x}c_{y})\sqrt[3]{2} + 
\\ \qquad \qquad \qquad \qquad
(\color{blue}{q}a_{x}c_{y}+\color{red}{p}^{2}b_{x}b_{y}+2\color{blue}{q}c_{x}a_{y})(\sqrt[3]{2})^2

に2つほど自己同型写像が追加されるのです! それが b,cをそれぞれ (p, q)=(\omega, \omega^ 2), (\omega^ 2, \omega)倍する写像です! 実際に代入して確かめると、第一項で邪魔だった pqはどちらの写像に対しても \omega^ 2 \omega = 1となって消えますし、[tex: (p,q)=(\omega, \omega2)]である場合に (\omega^ 2)^ 2=\omega^{3}\omega=\omega=pとなり、これは逆の場合でも成り立つのでピッタリと一致します。

 以上より、 \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)の自己同型写像

の6つとなり、見事に拡大次数と一致しました。

拡大体の性質による定義

  拡大体 E/Fが正規拡大かつ分離拡大ならば、 E/Fガロア拡大である。

 まずは正規拡大と分離拡大の定義を述べていきましょう。

  Eが基礎体 Eに根に持つ任意の F上既約多項式上の分解体となる時、 E/Fは正規拡大となる。

  F上の既約多項式というのは Fを係数に持った中で因数分解できない多項式のことで、例えば \mathbb{Q}上での x^ 2 - 2 x^ 3 - 2などが当てはまります。

 正規拡大である例としては \mathbb{Q}(\sqrt{2})が当てはまります。何故ならば \sqrt{2}を根に持つ \mathbb{Q}上の既約多項式というのは x^ 2 - 2しか存在せず、これは \sqrt{2}の添加によって (x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})の分離多項式として表せるからです。一方で \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})は正規拡大ではありません。何故ならば x^ 3 - 2 \sqrt[3]{2}を根に持つ \mathbb{Q}多項式ですが、 \sqrt[3]{2}を添加しても (x-\sqrt[3]{2})(x^ 2 + x + 1)と分離多項式として表せないからです。

  Eの任意の元 \alphaを根に持つ F上の最小多項式が分離的――つまり重根を持たないとき、 E/Fは分離拡大となる。

  \alphaを根に持つ F上の最小多項式とは、 Fの元を係数に持った上で \alphaを根に持つ方程式の中で最小の次数を持つものを指します。これによって Fの元を根に持つ場合はかならず1次式 x-\alphaが最小多項式になりますが、根が Fの元でなく Eの元である場合には例えば \mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}のように[tex: x2-2]の2次式が最小多項式となります。

 実は有理数体のような元を無限個持つような体(これを標数0の体と呼びます)では分離拡大は起こりようがなく、代わりに有限体 F_pなどの特殊な体などに現れていきます。この辺の詳細についてはガロア理論の基礎を学ぶ点においてはかなり重いように感じられるので、一先ずは触れないでおきます。


おわりに

 自己同型写像を考えている時にかなりエネルギーを使い果たしてしまったので、かなり中途半端ではありますが、今回はここまでにしたいと思います。ただ、自己同型写像をリストアップしたおかげでガロア群が解の置換を表現する群であることや、ガロア拡大が解の置換を考えるにあたって都合の良い性質を持っていることが掴めてきたので、それも踏まえて次回では3次方程式と解の置換について考えていきたいと思います。