【数学】スペクトル幾何学習メモpart.1 スペクトル幾何って?

はじめに

 まだガロア理論についての記事が進んでいませんが、就職までの目標としてスペクトル幾何について調べてみたら凄く面白そうな事をしているのを知ったのでその気持ちを共有したいなという気持ちも兼ねて急遽作ることにしました。

 あくまで学習のメモなので、間違いや疑問点があれば是非指摘してほしいですが、やや説明に適当さがある部分は大目に見てくださると嬉しいです。


目次


目的

 早速、スペクトル幾何の求めているものをざっくりと申し上げますと「コンパクトリーマン多様体 (M,g)上で定義されたラプラス作用素のスペクトル(固有値)を調べることによって、 (M,g)の性質を導く分野」という風に言われています。

 これだけだと訳が分かりませんが、音響学的にはこうも言い換えられます。

観測された音の周波数特性から発音体(楽器)の形状を調べる

 こんな面白そうなこと知ったら、ちょっとだけでも調べずには居られませんよね? ってことで、この事の意味を理解することを目標に前提知識として必要そうな数学分野を次の章でリストアップしてみました。


必要そうな数学分野

  1. 微分方程式(特にラプラス作用素の物理的な意味づけ)
  2. ベクトル解析
  3. リーマン幾何学
  4. スペクトル論

 順番に詳しく説明していきます。

微分方程式

 もっと言うと、スペクトル幾何の主役の一つである微分方程式の中でもラプラス作用素(あるいはラプラシアン)について調べていきたいです。

 ラプラス作用素というのは n次元ユークリッド空間上に定義された二階微分可能な関数 fに対して

 \Delta f = \sum_n \frac{\partial^2}{{\partial x_n}^2}f

より表される演算を実行する作用素です。つまり、各軸方向で二階微分してはそれを足して――をやっているのですが、もっと分かりやすいように3次元実空間 \mathbb{R}の上で書き直すと

 \Delta f(x,y,z) = \frac{\partial^2}{{\partial x}^2}f+\frac{\partial^2}{{\partial y}^2}f+\frac{\partial^2}{{\partial z}^2}f=(\frac{\partial^2}{{\partial x}^2}+\frac{\partial^2}{{\partial y}^2}+\frac{\partial^2}{{\partial z}^2})f

と書き表されます。

 実はこの記事書いた時点で微分方程式については既にある程度勉強中で、ラプラス作用素が重要視される理由として「物理学および音響学で重要なヘルムホルツ方程式が、ラプラス作用素に関する固有値問題の形をしている」ことまでは掴みました。これがどのような意味を持つのかは次回説明したいと思います。

ベクトル解析

 微分方程式の説明では入力が複数、出力が1つの変数で表される関数を扱う予定なのですが、そうなると「出力が複数ある関数の場合はどうなるの?」という点もまた疑問に上がっていきます。これを考える時に大きな助けになりそうなのがベクトル解析という分野におけるベクトル場の概念です。

 また、ラプラス作用素についてもベクトル解析における言葉だと、「 n次元ユークリッド空間上に定義された関数の勾配発散」という風に定義できるので、その意味にも注目したいところです。

 ただ、こちらについてはリーマン幾何学を学ぶついでに勉強するという感じになりそうなので、個別にパートは設けないかもしれません。

リーマン幾何学

 リーマン幾何学とは可微分多様体に距離を定義したもので、よく可微分多様体M、距離の定義に重要となるリーマン計量 gを用いて (M,g)と表されます。  数少ないスペクトル幾何の本の一つである浦川『スペクトル幾何』にも最初の章でリーマン幾何学の基礎事項についての説明から始めていました。少なくともそこに書いてある内容をスラスラと説明できるところまでいきたいというのを考えると

辺りを重点的に学べば良さそうです(正直けっこう重そうだけど!)。

スペクトル論

 スペクトルとは線形代数でいう固有値です。違いとしては(有限次元の)ベクトルが関数(無限次元のベクトル)に置き換わり、(有限次元空間上の)行列が作用素(無限次元空間上の行列)という関数になんらかの変化を与えるものに置き換わったという感じです。

 スペクトル論についても浦川『スペクトル幾何』の2章『リーマン計量の空間と固有値の連続性』において基礎知識として「スペクトルがリーマン多様体上で連続関数をなすこと」というのを凄く重点的に取り上げていました。2章は4つの節からなるのですが、そのそれぞれについて以下のようなことを示すことを目標にしていました。

  1. 有限次元正定値実対称行列について、2つの行列 A,Bの距離を定義し、それをもとに A,Bの距離が十分に小さければそれぞれのスペクトルの比は1:1、つまり行列全体のなす空間に対してスペクトルは連続であること
  2.  C^ \infty多様体 M上のリーマン計量全体の空間\mathscr{M}およびその距離を C^ \infty対称共変2テンソル場全体の空間 S^ {2}(M) S^ {2}(M)上に C^ \infty位相を与えるフレシュ・ノルム \|\bullet \|を用いて定義し、 \mathscr{M}がその距離に対して完備距離空間であること
  3. スペクトルが \mathscr{M}上で連続的に変化することと、 k番目のスペクトルの重複度も上半連続的に変化すること。また、上半連続性とはある点 g \delta近傍での関数の値が gにおける値と近い(十分に小さいかは \delta - \epsilon論法より論ずる)、あるいは gにおける値よりも小さいことをいう。
  4. すべてのスペクトルの重複度が1であるリーマン計量の族が、リーマン計量全体の空間の中で一般的な位置を占めること。具体的にはリーマン多様体 (M, g)上のリーマン計量全体がなす完備距離空間 (\mathscr{M}, \rho)から、すべてのスペクトルの重複度が1である部分集合を Sとした上で、集合 S (\mathscr{M}, \rho)の残留集合であること。残留集合とは位相空間 X内の加算個かつ稠密な部分集合の共通部分である。それに加え、 Sが等長変換群が離散的なリーマン計量空間全体の部分集合であること。群が離散的とは、群の開被覆の開部分集合全体から、群の任意の元のうちの1つのみを含む部分集合が存在するような群を示す。例えば、実数 \mathbb{R}に対する有理数 \mathbb{Q}は離散的でないが、整数 \mathbb{Z}は離散的である。

 それぞれ言っている意味はなんとなく理解できるのですが、何でそうなるのかを考えると全て自明ではなく、それぞれの証明も数ページに跨ぐ長丁場となっていたので、ここも丁寧にイメージを掴んで理解していきたいです。


今後の流れ

 近い内に微分方程式について勉強したメモをpart.2として公開する予定です。今の所は

  1. ばねの運動方程式と弦の運動方程式の比較
  2. 円形の膜に対する波動方程式から登場するヘルムホルツ方程式
  3. ヘルムホルツ方程式と固有値問題の対応

といった構成にしようかなーと考えているところです。

 そして、part.2以降はpart. 3とpart. 4の2つに分けてリーマン多様体についての学習メモを、part. 5とpart. 6の2つに分けてスペクトル論に触れられればいいかなと考えています。そして、予定通りに進めばpart. 7以降で浦川『スペクトル幾何』の3章以降の内容についても触れたいと思います。