ガロア理論学習メモ part.1 ガロア理論の構成要素の確認

はじめに

 代数学の1つの山場としてガロア理論(Galois theory)なるものがあります。これはエヴァリスト・ガロア(Evariste Galois)というフランスの数学者が19世紀に構築した理論で、これによって5次以上の代数方程式には一般的な代数的解が存在しないことを直感的に説明付けることに成功しました。いきなり難しい言葉を使ってしまったので分かりやすく言い直すと、5次以上の方程式には解の公式が存在しないことを説明付けたのです。

 実は「5次以上の方程式には代数的解法、もとい解の公式が存在しない」と言うのは、ガロアと同じく若くして命を失ったノルウェーの天才数学者ニールス・アーベル(Niels Abel)によって示されていました。ユークリッドディオファントスなどと言った偉大な数学者たちが古代に幾何学的な手法で2次方程式における解の公式


ax^2+ bx + c = 0 \Leftrightarrow x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}

を発明してから、1545年にカルダノと言う数学者が『アルス・マグナ』にて3次方程式4次方程式の一般的な解き方(特に3次方程式についてはカルダノの方法と呼ばれています)を公開し、だったらその流れで「5次の方程式についても解の公式が存在するだろう」と誰もが思うはずなので、そう考えるとこの事実はかなり衝撃的ですよね。実際に、数学の大巨匠として知られるガウスですらアーベルが提出したその内容に相当な不快感を露わにしてまともに相手にしなかったとの話があります(一方で、ヤコビやルジャンドルなどアーベルを支持する数学者たちもちゃんと居ました)。

 で、アーベルの業績を基にその直感的な理由付けに成功したガロア理論ですが、一体どうやってやったのかと言うと、当時はまだ数学的概念として確立すらされていなかった群(group)体(field)といったものを使って代数方程式の性質を特徴付け、それによって代数的に解けるか解けないか(可解性)を判断していました(”代数的に”の意味については後で説明したいと思います)。ただ、代数方程式を解く問題と体に付いては割と簡単に対応付けられるものの、代数方程式を解く問題と群の対応については簡単に掴めるものではありません。更に、その2つと代数方程式を解く問題の対応を得た後でも、それによってどうやって代数方程式の可解性を調べるかも簡単に分かるものではないと感じました。

 なので、このシリーズでは

  1. ガロア理論における基本用語に何があるのか、およびその関係性を大まかに掴む
  2. 群と体の定義および直感的なイメージを掴む
  3. 群・体と代数方程式を解く問題の対応を結びつける
  4. その結びつきから代数方程式の可解性を調べ方を理解する

と言った方針で僕がガロア理論を理解するまでの思考を辿って行きたいと思います。ただ、僕も書いている時点ではガロア理論についてまだ分からないことだらけで、僕も今の時点ではまだ1と2について大体分かったところです。なので、書き進めている間に構成が変わるかもしれません。


目次


ガロア理論の構成

 ガロア理論特有の単語を調べて特に目に付いた以下の3点でした。

 順番にその定義を見ていきましょう。また、定義は以下の書籍を参照にしておりますが、用語の名称や記述を一部変更しています。

ガロワ理論〈上〉

ガロワ理論〈上〉

ガロア

  E/Fを有限次拡大体とする。このとき、ガロア{\tt Gal}({\it E/F})とは集合


\left\{
\sigma : E \rightarrow E\,\,|\,\, \sigma は自己同型で、全てのa \in Fに対して\sigma(a)=a
\right\}


のことである。

 早速、エライ事になりましたね。代数学をやってない方はチンプンカンプンでしょう。この記事を書いている時点で一応、幾何学的なイメージは持っているのですが、それでもこの定義の中にある用語を説明してからではないと説明するのは厳しいかなって感じがします。とりあえず、せめて分からないなりにやる事として、意味が分からない単語をピックアップしておきましょう。

  • 有限次拡大体(field extension)
  • 自己同型(isomorphism)

 ピックアップしたまま放っておくのもなんかアレですので、それぞれについて簡単なイメージを言うと、有限次拡大と言うのは代数学の基本的な概念である体の扱える範囲をとある方法で拡大したもの自己同型というのは同じく代数学の基本的な概念である群に対して形の変わらないような変換をするものです。今は全く意味が分からないと思いますが、この記事を読むにつれて分かるようにしたいと思います。

ガロア拡大

  E/Fを有限次拡大とする。次は同値である

(a)  E F\left[x \right]のある分離多項式の分解体である
(b)  F Eに作用する Gal(E/F)の固定体である。
(c)  E/Fは正規拡大かつ分離拡大である

これらのいずれかを満たす場合、 E/Fガロア拡大と呼ぶ。

 これも分からない単語をピックアップしてみましょう。

  • 分離多項式(separable polynormal)
  • 分解体(splitting field)
  • 固定体(fixed field)
  • 正規拡大(normal extension)
  • 分離拡大(separable extension)

 5つの内4つが先程出た拡大体に関連するものですが、最初の分離多項式だけは中学までの数学を終えていれば十分に理解できるものですので、以下に定義と例を与えてみます。

 多項式 f \in F\left[x\right]が定数でなく、ある分解体において、その根がすべて単根であるとき、 fを分離多項式という。

 たとえば、

 
 f = x^2 - 2 = (x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})


は重根を持たないので分離多項式であるが、


f = x^2 = (x \pm 0)(x \pm 0)


は重複度2の重根0を持つので分離多項式である(\pmは「符号はどちらでも構わない」の意を持つ)。

 定義中に言葉として”分解体”を使ってしまいましたが、要は因数分解した時に重根がでないものが分離多項式と思ってくだされば大丈夫です。

 で、話は戻りますが、このガロア拡大と先ほどのガロア群にはガロア拡大に対する自己同型全体についての群 {\tt Aut}(E/F)は必ずガロア群となるという繋がりがあります。まだ自己同型についてすらロクに説明をしていないのでこれも所見の人は訳が分からないと感じるとは思いますが、少なくともこの点が何か重要そうであることは感じ取れたのではと思います。

 では、最後のガロア理論の基本定理を見ていきましょう。

ガロア理論の基本定理

E/Fガロア拡大とする。

(a)
中間体F \subset M \subset Eに対して、そのガロア {\tt Gal}(E/M) \subset {\tt Gal}(E/F)は固定体

 
E^{{\tt Gal}(E/M)} = M


を持つ。さらに |{\tt Gal}(E/F)| = \left[E:F\right]であり、\left[{\tt Gal}(E/F) : {\tt Gal}(E/M)\right] = \left[M:F\right]である。

(b)
部分群 H \subset {\tt Gal}(E/F)に対して、その固定体 F \subset E^H \subset Eガロア
{\tt Gal}(L / L^H) = H


を持つ。さらに \left[E : E^H\right] = |H|であり、 \left[E^H : F\right] = \left[{\tt Gal}(E/F) : H \right]である。

 texで打つのしんどかった……っていうのは置いといて、ガロア群およびガロア拡大と何かしら繋がりがあるのは見て取れますが、変な記述が更に増えてきたりと直感的に意味を捉えることがかなり難しくなっています。これも用語をピックアップすると、前に出てきたのも含めて

  • 中間体(intermediate field)
  • 固定体(fixed field)
  • 位数(order)
  • 拡大次数(extension degree)
  • 部分群(subgroup)

辺りが要説明の単語でしょうか。これを見て「位数と拡大次数ってそんな単語あったっけ?」って皆さん思うかもしれませんが、実は途中で |{\tt Gal}(E/F)|と表していたものが位数となり、 [E:F]と表していたものが拡大次数となります。

次に向けて

 当面は上記の3つの概念を理解することを目標として、そのために次回以降は群と体を例を挙げながら慣れ親しんでいこうと思います。

 僕と同じく代数学の時点でよく分からないという人は以下の書籍を読むと良いでしょう。整数論代数学の基礎も踏まえながら一つ一つを図を用いて丁寧に説明していますし、なによりも理解までのシナリオを丁寧に順序立てて説明していますので、初学者の方には強くオススメしたいです。

ガロア理論の頂を踏む (BERET SCIENCE)

ガロア理論の頂を踏む (BERET SCIENCE)

  • 作者:石井 俊全
  • 出版社/メーカー: ベレ出版
  • 発売日: 2013/08/22
  • メディア: 単行本